福島慶介さんに聞く、まちの記憶と未来
小樽運河と石造倉庫、そして歴史ある銀行建築。
街を歩くと、まるで時間がゆっくりと流れているかのような風景に出会います。
かつて小樽は商都として栄華を誇りました。
しかし戦後、石炭から石油へとエネルギーが移り、港の役割も変化。物流の中心は太平洋側へと移っていきます。
その中で、小樽には“あるもの”が残されました。
それが、時代の記憶を宿した建物たちです。役割を終えたはずの建物は、今も使われ続け、街の中で生きています。小樽の街並みは、まさに「語る存在」として、多くの人を惹きつけています。
小樽観光ガイドマップ「つむぐおたる」では、「海と運河がつむぐ7つの小樽の物語」という切り口で、7つの物語に分けて小樽を紹介していますが、
今回は、シリーズ最後、語る街並みを深堀します。
▷[公式]小樽観光ガイドブック「つむぐおたる」はこちらから
今回お話を伺ったのは、小樽生まれの建築家であり、まちづくりにも取り組む福島慶介さんです。
「小樽は可能性に満ちている」
「小樽は、可能性に満ちている街だと思います」
そう語る福島さんは、一度は東京で建築設計の道を歩みながらも、30歳で小樽へ戻る決断をしました。
「当時は、地方のまちのあり方が見直され始めていた時期でした。都市計画の分野では大都市であっても小都市が集積している形と捉える試みもされていました。小樽のような規模のまちで何か新しいことができれば、日本も少し変わるかもしれない良い流れを全国に波及させえられるのでは。そんな思いがありました」
幼いころから「つくること」が好きだったという福島さん。
その関心は建築にとどまらず、まち全体へと広がっていきます。
「設計はクライアントワークなので、自分の意思だけではできないことも多い。だからこそ、プロジェクトを立ち上げて、まちに新しい動きをつくることに面白さを感じるようになりました」
小樽に戻るという選択は、決して簡単なものではありませんでした。
「学者としての道や映像制作など研究者としての道や、大手企業あるいは有名設計事務所への就職など、手放したものも沢山ありました。でも、それ以上にこの街で挑戦したいという気持ちがありました。工務店という家業を継ぎつつ、そこを絡めながらやれることが沢山あると」
『偶然』と『市民の想い』が生んだ、価値ある街並み
小樽の街並みの特徴について、福島さんはこう語ります。
「小樽のように、歴史的な建物が“点”として自然に数多く残っている街は珍しいんです。多くの都市は保存地区として“面”で残そうとしますが、小樽は結果的にそうなった」
港の機能が衰退したことで、大規模な再開発が進まず、古い建物が残ることになった。一見すると衰退の結果ですが、それが今の小樽の魅力につながっています。
「当時はお金をかけてしっかりした建物がつくられていた。それも、今まで残っている理由の一つだと思います。また、運河保存運動のように、市民が景観を守るという歴史も、小樽ならではの魅力的な物語です」
小樽の原風景「北運河」
小樽の街並みの中でも、特に当時の姿を色濃く残している場所が北運河です。
観光客で賑わうエリアとは異なり、幅の広い運河と石造倉庫が並ぶ景観は、港町としての小樽の原風景ともいえる場所です。
その象徴ともいえるのが旧北海製罐第3倉庫(以下、旧第3倉庫)です。
巨大な倉庫が運河沿いに並ぶ姿は、かつての港のスケールを今に伝えています。今は船の姿こそありませんが、この場所に立つだけで、かつて物資があふれ、行き交っていた風景を思い描くことができます。
「こうした建物は、ただ残っているだけではなく、人が関わることで価値を持ち続けると思います」
かつて“物”が集まり、流れていった場所を、これからは“人”が集い、とどまる場所へ。
その新しい風景を、この場所から生み出していきたいといいます。
昨年春、NPO法人 OTARU CREATIVE PLUSが小樽市に提言した「旧第3倉庫利活用計画」は、旧第3倉庫を核として、北運河から小樽のより良い未来の姿を描くための内容でした。
「旧第3倉庫利活用計画」はホームページをご覧ください。
■OTARU CREATIVE PLUS HP
「人がいる風景」をつくる
これからの小樽に必要なこととして、福島さんは「人がいる風景をつくること」を挙げます。
かつて社会実証実験としておこなった、コンテナを活用したカフェなど、物流の風景を残しながら、人が集まる空間を生み出す取り組みも、その一つです。
「小樽は、人がいない場所も多い。だからこそ、自分たちで意図的に“人がいる風景”をつくり、それを発信していくことが大切だと思います」
そのためには、場所や手法にとらわれない柔軟な発想も必要だといいます。
「移動できるコンテナのように、いろいろな場所に人の流れをつくっていくこともできると思います。昨今では特に、第3号ふ頭周辺を核とした、運河を超えた先の港エリアにおいて、『港を巷に』というテーマのもと、物から人への様々な変化が求められています」
さらに、まちづくりを進めるうえで欠かせないのが、行政と民間の連携・共創です。
「ダメ出しをするし合うのではなく、お互いに理解し合って歩み寄ること。それができれば、街は前へ進んでいくのではないでしょうか」
【小樽通2025秋号】「鼓動を続ける小樽の港と鉄道[つむぐおたる深堀り]」にもコンテナカフェのお話がございます。詳しくは、こちらをおよみください。
▷【小樽通2025秋号】「鼓動を続ける小樽の港と鉄道[つむぐおたる深堀り]」
語る街並み
現在は、学びの場づくりにも取り組み、今年の秋にも新たなイベントの開催を予定している福島さん。
まちを変えていくためには、「知ること」が欠かせないといいます。
「学びがないといけないと思っています。知ることで、見え方も関わり方も変わっていく」
また、若い世代との関わりについても、こう語ります。
「若い人と話していると、自分とは違う感性を感じることがあります。だからこそ、これからは若い人たちにどんどん現場を任せて、自分はサポートに回っていきたいと思っています」
そして、これからのまちづくりについて、こんな思いも語ってくれました。
「気軽に楽しく参加できるまちづくりにしていきたいですね。自分たち事(じぶんたちごと)として関われることが大切だと思います。その先に、企画を生み出すようなベンチャー的な動きが、この街から出てくると面白いと思っています。特に、旧第3倉庫利活用計画では、アートを活用して楽しく、かつ創造的なまちづくりの拠点として建物を位置付けました。
まだまだ、手付かずの資源が小樽には沢山眠っているので、それらをみんなで守り、活用していけたら、小樽は魅力的な街になっていきます」
そして最後に、今回のテーマである「語る街並み」について、こう語りました。
「街並みは、それだけで完結するものではありません。人が関わってはじめて意味を持つものだと思います。だからこそ、僕たち自身がこの街を語っていく必要があるんです」
小樽の街並みは、ただ残されているのではなく、人によって支えられ、語られながら未来へとつながっていきます。
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